黒い蛇

「人間ドック」に入ることになった。
なんでも初体験と言うのは不安なもので、もし悪いところが見つかって「入院って事になったらどうしよう」とか、「白血病だったらどうしよう」とか、不安が広がっていた。

当日、生まれて初めてバリウムを飲んだ。噂では、イチゴ味、バナナ味、チョコ味、クッキー&クリーム味、関西風お好み焼き味などがあると聞いていたので、ちょっぴり期待してメニューでも出てくるのかと思ってたら、いきなりLサイズのコップにたっぷり注がれたバリウムと胃を膨張させるための炭酸水がやってきた。

それにしてもマズイ。体は「こんなの飲んじゃだめだよー」って拒否するのに無理に飲まなきゃいけないこの辛さ。しかも炭酸飲んでるのに「ゲップしちゃだめ」なんて言われ、電動ベットに寝かされ右に左に動かされて、しまいにゃ45度の斜面に逆立ち状態っす。
こりゃ、検査のせいで病気になるかもしれんと思った。

「人間ドック」の結果は最後に先生が教えてくれるんだけど、心電図も正常、胆のう、肝臓、腎臓も正常。なーんだ、きわめて健康体ではないかと思ってたら、最後に先生が、

「胃にねぇ・・・」
(へ?。胃?。白血病じゃないの?。胃は予定にないよ)って思った。

「・・ポリープがたくさんありますね」
(ポ、ポリープ。よくミュージシャンが歌いすぎで咽にできるあれか。それって、言い方かえたら腫瘍じゃないの?・・)

「胃のポリープは良性であることが多いですが・・・」
(おいおい、いま良性って言ったよね確か。良性があるってことは悪性もあるってことじゃないの・・・それってガン。ちょっと、まってくれい。確かに最近は胃の調子が良くないよ。インフルエンザになったし、焼肉食いすぎたし、最近は夜食ばっかり食べてるし・・・。でも、それはインフルエンザや暴飲暴食のせいであって、ガンじゃない。まてよ、そう言えば胃ガンって日本人のガンで一番多いんだよな・・。くらくら。)

「とにかく、一度胃カメラで検査した方がいいですよ」
(え、胃カメラ。やだー、そもそも蛇状の物体は見るのも大嫌いなのに、それを飲めだと、おえー。考えただけで吐きそうになる。これまでに胃カメラを飲んだ人の話は聞いたことがあった。「とてつもなく辛い」とか「ヨダレは我慢せず、垂らし放題にした方がいい」とか、「口元にタオルを敷いとくとヨダレが流れなくてすむ」とか、いろんなノウハウは聞いていた。しかし所詮は他人事と笑っていたのだ。)

「良い先生がいますから、紹介状を書いてあげましょう」
(ぬはは、よりによって家から近い病院ではないか。これも運命なのだろうか・・。)

その後、先生は「この先生は上手だから・・」なんだのしゃべっていたが、肝心の私は、「いったい全人口の何割が胃カメラ経験者なんだろうか」とか、「親知らずの抜歯経験者とどっちが多いかな」などとぼんやり考えていた。

つづく