体温計は42度まで Vol.5

 ともかく、私はさまざまなイメージの断片と戦っていた。
というより、最後にはほとんど戯れていた。
なんにしろ、40度だ。完全に開き直りの世界である。

 深夜、何かの気配を感じた。それは明らかに家族の気配とは異なっていた。しかし不思議と恐怖感は襲ってこなかった。誰かの気配・・・。とても高貴な感じの人。ふっと肩の辺りを触れられた気がした。その瞬間、私はまた眠ってしまった。

 次の日の朝。
熱を見た。38.6度だった。昨日に比べるとぐっと下がってるじゃないか。
心なしか、気持ちも落ち着いているし、イメージの洪水もおさまっていた。
ちょっぴり寂しい気もした。
怒涛のごとくやってくるイメージにおぼれる快感も捨て難かったのだ。
なんだか、自分が天才アーティストになったような気がしていた。「これが私の心の
叫びなんだぁ」と絶叫しながら絵を描く画家になった気分で楽しかったのだ。

 何気なく窓を見ると、青空が見えた。白い雲がゆっくりと漂っている。
あの雲のように、ゆったり生きていけたらなぁ。と今度はすっかり詩人になっていた。勝手なもんだ。

 今日は日曜。久々に「13の月の暦」を見る。青い律動の手の日だ。
私の太陽の紋章と同じ日。癒しの日なのだ。
マヤ文明があったから「13の月の暦」もできた。
 マヤが作ったのは精神世界。
 マヤをひっくり返すと、ヤマ。
 邪馬台国、大和(ヤマト)のヤマだ。
 「ヤマとはこの日本のこと?」。

 ふと体温計を見た。
そういや、体温計って42度までしかないんだよな。これって確か42度を
越えちゃうと、人間は死んじゃうから測っても意味ないんだったよな。
私は40度まで行ったんだ。あと2度。いつもよりずっとあの世に近いところにいたのかもしれないなぁ。

 おわり。